イラスト・文/河原敬吾

湘南から東京に戻ってきたブー太郎。
気づけば用賀を通り越して新宿まで来てしまった。

まあいい、急いでるわけじゃない。
新宿まで戻れば、あと少しで用賀だ。
歩いて帰ろう。

ブー太郎は、用賀に向かおうとフラフラ歩き始めた。
大きい建物と派手な看板の多い街だが、街の割にはどこか人が少なく閑散としている。

風邪が流行っていて、ニンゲンは家に居るらしい。
ニンゲンが居なくなってエサにありつけなくなるのは困るが、都会にはいくらでもエサ場はある。ブー太郎に風邪の流行は関係ない。

歩きを進めると、突然の前。
ブー太郎は、近くにあった軒先で雨宿り。
雨が止みそうにないので、しばらくここで雨宿りをすることにした。

ブー太郎は、雨が好きではないがキライでもない。
ジッとしてる時間も悪くない。
ブー太郎が雨宿りをしてると、軒先に一人の若い女が駆け込んできた。
20代前半くらいの元気な女。

「やべ~、いきなり雨とかマジ勘弁なんだけど」

うるさい女だ。
ブー太郎が黙ってると、続けて独り言。

「傘持ってないしな~。どうしよ。仕事間に合うかな?」

静かにしてくれ。ノラ猫にも情緒はある。

ブー太郎がジッとしてると、女がブー太郎に気づいた。

「あっ、ノラ猫だぁ~!キミも雨宿りしてんの?」

やっぱり話かけられたが、シカト。
「なんだよ、無視すんなよ!」と女は、ブー太郎に話しかけながら頭を撫でた。

頭を撫でられると悪い気はしない。
ちょっと気持ちいい。
少しだけ、女に心を許したブー太郎。
挨拶がわりに「ブー」と一言。

「え~変な鳴き声、超ウケる(笑)」

余計なお世話だ。
やっぱり油断ならない。

この女、年は25歳。2年前までアイドルをやっていた。名前は「ミサキ」。2つのアイドルグループを渡り歩いた後、セルフプロデュースユニットでTVに出たりもしたが、半年ほどでユニットが活動休止。3年半に及ぶアイドル人生に幕を下ろして、今は社会人として働いている。

10分ほど時間が経過。

女は、スマフォで時間を確認した後、
「雨止まないけど、仕事の時間だから行かなきゃだわ」とブー太郎に一言。

この女、口調は悪いが、仕事に対する姿勢はマジメだ。自分で決めたことを貫く頑固な一面も持ち合わせている。ふと孤独になることはあるが、基本はポジティブ。人を大事にすることでファンからも愛されていた。情が深い。

10分ほど一緒に居ただけだが、
ブー太郎も少しだけ心を許した分、この女と別れづらくなった。
気持ちいい撫で方をする女、ちょっとだけ好きになった。
「じゃあ行くね!ノラ猫くん!バイバイ」と言って、最後にもう一撫で。
撫でた後、女は、背負っていたリュックを頭上に掲げて走り去っていった。

ノラ猫なので、あまり頭を撫でられることはないブー太郎。

撫でられた余韻に浸りながら、雨が止むまで、ここでジッと待つことにした。

おしまい