イラスト・文/河原敬吾

新宿から用賀に戻ってきたブー太郎。

渋谷には、人がほとんど居なかったが用賀の街には以前とあまり変わらない人の数。
違っているのは、街ゆく人の大半がマスクをして顔の半分を隠しどこか急ぎ足なこと。

変な光景だ。

笑い声や騒いでる声もほとんど聞こえない。
子どもの数も少ない。

いつもと違う光景に野生の本能が少しザワつくが身の危険を感じるほど緊張感があるわけではないので、エサを求めて歩いた。

いつもなら、ニンゲンが近寄ってくるが、今日は誰も近寄ってこない。
チラリと目が合うが、そのまま過ぎて行ってしまう。

2時間ほど歩いたが、目ぼしいエサにもありつけず、すっかり日も暮れてきた。

ふと、タカナシの牛乳をくれる男の顔が頭に浮かんできた。

「家にいるかな?」

ブー太郎は、行くところがなくなると、タカナシの牛乳をくれる男の家に行くことにしている。ゆっくり休める縁側もあり日向が温かい。そして、男はだいたい家に居る。

そう決めると、用賀の駅前から用賀一丁目の方に向かってゆっくりと歩き始めた。

「ブ~クション」

風邪ひいたかな?
ブー太郎は、クシャミまでブーとなく。

ニンゲンの間で新種の風邪が流行ってると聞いた。
しばらくは、男の家の縁側でのんびり過ごすことに決めた。

おしまい