情報と情緒の視点から次の時代のヒントを得るためのインタビュー連載「SCROLL」。
 今回のインタビューは、江戸切子の店華硝の職人・八幡響子さんと華硝・熊倉節子社長。当店は、安倍首相からオバマ前大統領へ贈り物をする際に選ばれたお店でもある。
 江戸切子のトップブランドとして革新を進める華硝の強みと魅力を、双方の視点から語っていただいた。

江戸切子とは?
 色のついた(色被せ)硝子の表面に切り込みを入れて美しい文様を施すカットガラスのこと。職人たちは、グラインダーという回転する径や細さの違うダイヤモンドにガラスをあててカットをし、その後磨き粉を付けてカットと同じ流れに沿って手で磨き、繊細に仕上げていく。


江戸切子の店華硝 江戸切子職人・八幡響子さま

この業界に入るきっかけを教えてください。
 大学卒業後はお客様に寄り添う仕事がしたいと思い、住宅リフォームの会社で営業をしていました。そこではお客様はもちろん、施工職人の方々とやり取りをすることも多く、彼らの仕事ぶりを目の当たりにするうちに自分も職人という仕事をしたいと思うようになりました。
 社会人二年目になって、新しいことに挑戦してみたいと思っていた時、弊社の求人を偶然Instagramで見つけたんです。元から伝統工芸には興味がありましたし、キラキラしていたりカラフルなものが好きなので、これは何かの縁だと思い、日本橋の店舗でやっていた作品展へ行きました。そこで会長とお話しする機会をいただき、「職人って言っても、イメージしている職人とは違うぞ」と言われたんです。どういうことか当時はあまり分かっていませんでしたが、深く考えていると機を逃すと思いましたし、自分自身が新しいことをやってみるのが好きなので、思い切って飛び込みました。


二代目会長・熊倉隆一氏。米粒がつながっている様子を表現した「米つなぎ」は、華硝オリジナルの紋様である。熊倉氏は他にもオリジナル紋様を数多く生み出しており、伝統に捕らわれないデザインセンスと技術の高さが伺える。

働いている今、「イメージしている職人とは違う」とはどういうことだと思いますか?
 恐らく、こつこつとモノを作っていればいい仕事ではないということだと思います。華硝の場合はカット・磨き・検品という主な工程を分業制で行っています。どの商品も最初から最後まで誰か一人で作るわけではありません。チームでモノを作ることによって、細かい変化にも対応できるんです。硝子も職人さんたちが吹いているモノを仕入れているので、一見同じ形でも色味や厚み、高さなどが微妙に違うんですね。そこに合わせたカッティングを施していけるのが手仕事の良さであり、チームで仕事をする強みでもあります。
 それから、うちは日本橋に店舗があるんですけど、職人である私たちがお客様に販売をするんです。作り手である私たちは一つ一つの商品に愛着があります。その魅力をお客様たちに直接お伝えすることで、納得して買ってもらうことができます。だから、初めてお越しいただいたお客様には必ず商品説明を行うようにしています。それでも、リピーターのお客様が多いというのは、華硝の強みではないかなと思います。


江戸切子の店華硝 日本橋店(写真提供/江戸切子の店華硝)

華硝では、日本橋店と自社オンラインでの直営販売しか行っていない。それにも関わらず、リピーターが多いのは何故か。華硝社長・節子さまにお聞きした。
 百貨店やデパートに卸さない理由はいくつかあるんですけれど、第一には“江戸切子”と一括りにされて置かれてしまうところです。どこにでもあるモノって欲しくなくなるでしょう?ここへ来なきゃ買えないからお客様がいらっしゃる。だから、八幡さんが話していたように職人自ら商品説明ができる。そうすることで、お客様たちに華硝の商品の良さを理解していただけます。付加価値や体験価値というのもうちのこだわりなんです。
 商売とは、ファンを作ることです。このような情勢になり、どこも苦しい状況が続いていますが、うちのお客様たちは変わらずお顔を見せてくれ、一つでも多く購入してくださります。本当に感謝しています。作っている人たちの愛情や気持ちがきちんと届いているんだなと、今日ほど実感することはありません。


江戸切子の店華硝 代表取締役社長 熊倉節子さま(写真提供/江戸切子の店華硝)

ファンを作るというのは、決して簡単なことではありませんよね。創業当初からそこへ注力していたのでしょうか?
 いえいえ、全然ですよ。そもそもうちは商売を始めたくて始めたのではなく、結果そうなっちゃったという感じなんです。工房は75年前からありますが、江戸切子を売り始めたのは26年前なんです。
 最初はプレゼントで人に差し上げていました。そしたら、お礼にエルメスのスカーフやマイセンのコーヒーカップをいただくようになって、正直驚きました。こんなものもらっちゃっていいの?って。それだけに留まらず、差し上げた方が他の方にお見せしたりお話ししたりしてくれて、その方々も欲しいと言って、いらっしゃるようになりました。昔はインターネットがないので、本当の口コミです。その時は先代の熊倉が工房を仕切っていて、お客様が見えると「作っているところ見ていく?」と言って工房へ入れていたんです。それを見たお客様たちが褒めると、「持ってく?」と作ったものを気前よくあげてしまっていて(笑)皆さんそれが嬉しいし、楽しいみたいでした。だからまた来てくださると、先代の熊倉がまたそれをするんです。それの繰り返しで、口コミの輪が広がっていきました。
 最初は女性が多かったんですけれど、今度は「ご主人が会社でお祝いに送りたい」というお話までいただくようになり、領収書や請求書を作らないといけなくなりました。そこで初めて会社登録をしようということになり、商売をするようになったんです。差し上げたお客様たちも何をお礼したら良いのかを困り始めていらっしゃいましたし、ちょうど良いんじゃないかと思いました。大昔の物々交換見たいですよね。ですが、お客さんや周りの方に煽られてできていったというのが華硝の歴史です(笑)


1946年の創業以来受け継がれている亀戸の工房。グラインダーや磨き台(非公開)といった作業機械は、会長の熊倉氏自らが整備を行っている。

ファンを作ろうとして作ったのではなく、自然に出来上がっていった。ただ良いものを作るだけではない「人」としての価値が華硝の強さということでしょうか?
 そんな大逸れたものじゃないです。ただ、人に恵まれるって大事ですよ。会社にする気がなかったので、初めてだらけのことばかりでしたし、お客様が来る度に心臓がドキドキしていました(笑)良い時も悪い時もありながら、20年かかってようやく会社になったなと思います。お客様やスタッフが力になってくれたおかげです。
八幡さんは年齢こそ若いですが、作ることから販売、スクールの講師まで全ての業務に携わってくれています。そういうマルチで働ける職人って少ないんですよね。だからとっても助かっています。

熊倉さま、ありがとうございました。
八幡さんから見た華硝の江戸切子の魅力というのは何でしょうか?

 先ほど社長が百貨店に置かない理由を話されていて考えたことですが、100%手で仕事をしていたら数を作ることができないと思います。うちはカットした部分を全て手で磨いています。そうすることで、カットしただけだと曇っている硝子の線が一本一本光り輝きます。この工程は、強い薬品につけて仕上げる酸磨きという方法もありますが、それでは、薬品で硝子の表面を溶かしていているようなものなので、本来の色味が抜けてしまったり、細かいカットがぼんやりしてしまったり、また硝子本来の強度を保つことができなかったりします。江戸切子の良さは、光の反射による単色だけでは出せない輝かしさや華やかさをデザインや磨き次第で無限に生み出せるところにあるので、本来の色味や強度をそのままに、弊社独自のデザインや磨きの技術で昇華させているのは、他と見比べてもうちの江戸切子ならではだと思います。


今年に入ってから八幡さんは「糸菊つなぎ」の文様のカットを受け持つようになった。作業後に会長の熊倉氏から指導やアドバイスをもらい、自身のスキルを少しずつ高めている。

最後に。八幡さんが江戸切子職人として働く意味とは何ですか?
 以前、会長の熊倉が「機械のように働く」ということをおっしゃっていたんです。今は人間に近づけている技術が多いですけれど、うちは人間が機械のような均一性を出せるように働くことで技術革新に繋がるという意味です。磨きやカットだけでなく検品一つにしても、チェックが終わればそのまま商品として並んでしまうので、とても緊張感があります。けれど、そういったクオリティを落とさないという全員のプライドと意地があるからこそ、華硝のデザインや技術は評価されていると思います。華硝の江戸切子の魅力をもっともっと多くの人々に知ってもらえたら良いなと思いますし、私自身も多くの人に伝えていきたいと思います。


江戸切子の店華硝 江戸切子職人 八幡響子さま(写真提供/江戸切子の店華硝)

華硝について
当店は、オンラインショップのみならず、スクール・体験も行っている。
詳しくは、下記HPを参照。
HP
https://www.edokiriko.co.jp/
Instagram
https://www.instagram.com/edokiriko_hanashyo/?hl=ja