15年程前。1週間ほど、バンコクに旅行に行った。
旅行と言っても、カオサン通りにある安いゲストハウスに泊まってバンコクの街を歩き回っていただけなので、旅行というよりはダラダラ過ごすためにバンコクを選んだだけだなのかもしれない。

学生時代、初めて行った海外、タイ・バンコク。

会社を辞める事を決めて、もう一度、自分の肌感覚を取り戻したかった。

24歳で就職して、社会の中で生きることを決めてから、全てを吸収してやろうと決めた。
多くの理不尽も飲み込んだが、それにも限界がきた。

次へ踏み出すための自問自答。
当時、彼女と旅行に行く予定をしていたが、キャンセルして一人でバンコクに行った。

バンコクでの数日間、誰とも会話らしい会話をせずに
カタコト英語だけで過ごしていると、だんだん会話をするのが面倒臭くなってきた。

帰国後、成田に着くと、日本語を話したくなくなった。

カタコトの英語で済んでいたことが、相手の気持ちを慮った挨拶や言い回しを考えて話すことがとてつもなく億劫に感じられた。

東京に着いてから、日本語を話したいと思うまで日本語を話すのをやめた。
旅行のまま、誰かに話しかけられても得体のしれない外国人のままでいようと決めた。

渋谷からバスに乗って自宅に帰る時、年配の女性に「隣いいですか?」と話しかけられたが、カタコトの英語で返答した。相手の反応も見ずに、窓の外を見たので、どう思われたのかわからないが、初めて、東京を外の人として見ることが出来た。

顔は仏頂面をしていたと思うが、心で笑った。

悪くない。
自分の肌感覚が戻ってきた気がした。