夕方、中野にある支店での事務作業が終わると担当営業マンと共に車に乗り込み、歌舞伎町にあるショールームへと向かった。ここが取材拠点となる場所だ。

ショールームに着くと、路面に面しカラオケ機器の設置された煌びやかな内装の店内にいかにも水商売あがりといった風情の受付の女の子が一人。そして煌びやかな店内とは裏腹に奥には事務作業や営業マンの待機部屋として使われている汚い事務所部屋。事務所には、まともに使えるPCもなく、環境面には少しげんなりしたが、どこか東南アジアの安いゲストハウスを彷彿とさる危険な雰囲気にどこかしっくりとくる自分がいた。

そして、着いて早々に担当課長から1軒目のスナックの取材がすぐに入っており課長自ら取材の立ち合いをして仕事振りをチェックする旨を知らされた。いきなりの取材と風俗店の経営者のような風体の課長の立ち合いにビビりながらも「わかりました、大丈夫です」と返答した。

実際は、何の準備も出来ていない。スナックの基礎知識すら怪しい。

内心焦りまくっていたが、今更どうすることも出来ない。
少ないながらも取材経験はあるので、出たとこ勝負だと開き直った。

課長と取材先のスナックに向かい1分ほど歩いてお店に着くと、課長がスナックのママと軽い挨拶を交わしながらカウンターに座り、それに続くように隣の椅子に腰かけた。

気づけば目の前にママがいた。40代後半~50代で水商売のベテランといった風情を醸し出している。名刺交換し早速取材。

「なめられたら終わる」

腹の底から低いトーンで落ちつきを装った声を出し、緊張を悟られないようにした。
ゆっくりと慎重に話ながら、ママの顔つきや仕草に敏感に反応した。

「ママも課長も自分の手の中に入れる」

開き直ればなんだって構わない。この場が心地よく成立すればいい。わからない事は堂々と聞けばいい。堂々と聞けば大抵のことは皆すんなりと答えてくれる。あとの判断は勝手にしてくれ。オレの知ったこっちゃない。

「知りたいことを聞けばいい」、ただそれだけのことだ。

取材が終わり、ショールームへ戻る途中に担当課長から「流石プロだね」と野太いダミ声で言われ、「いやいや、それほどでも」と謙遜するように冷静にそして落ち着いて返答した。