埼玉の実家を出てから約18年が過ぎた。何度か引っ越しを繰り返しながらも東急田園都市線沿いの用賀か桜新町にずっと住み続けている。

一人暮らしを始めようと決めた当初は、中央線か東急東横線沿線に住みたいと思い各駅を探してまわったがしっくりくる街も物件も見つからなかった。そこから、半年かけてじっくりと渋谷か新宿にアクセスの良い沿線をくまなく見てまわったが、どこもしっくりこなかった。

そして、残ったのが東急田園都市線。

一人暮らしを始めるにあたり、東急田園都市線沿いに住むのはやめようと思っていた。そのなかでも用賀や桜新町は、僕のなかでは最も住みたくない街として存在していた。

幼稚園まで用賀で過ごし、父親の会社が用賀にあり、桜新町に親戚が居たため、用賀や桜新町には何一つ新鮮さを感じることが出来なかった。

せっかくの新生活、知らない街でワクワクしてみたかった。

しかし、他の沿線で暮らしたい街も物件もない以上、しかたなく東急田園都市線沿いの物件を探しに行った。三軒茶屋の不動産屋で紹介されたのが用賀にあるアパート。

「よりによって、用賀か・・・」

たいしてテンションも上がらず、用賀にあるアパートの内見に行ったが、物件を見て驚いた。実家の自分の部屋の間取りとほぼ一緒。雰囲気も限りなく自分の部屋に近い。1DKのアパートでキッチンも6帖と広い。自分が生活する様子をありありとイメージすることが出来た。それまで見てきた物件では感じることの出来なかった感覚。いわゆるビビッと来たというやつだ。予算も申し分ない。

内見帰りに用賀の駅前を歩くと、当然のように地理感覚もありしっくりくる。
嫌悪感から一転して、用賀に住むことを即決した。
あれから18年、今では用賀や桜新町以外に住むことが難しくなってしまった。

あの時、じっくり探してしっくりする感覚で引っ越しをしなければ、用賀でブー太郎に出会うことも、桜新町にオフィスを構えることもなかったと思うと少しだけ感慨深い。

まわりに惑わされず「じっくりと自分のしっくりを探す」。
今でも大切にしている感覚だ。